『スチール・ビーチ 上・下』
“STEEL BEACH”
ジョン・ヴァーリイ 著
浅倉 久志 訳
早川書房
ハヤカワ文庫SF
あらすじは割愛。
面白さ:☆☆☆☆☆
「「あと五年以内にペニスは時代遅れになります」と営業マンはいった。」という一文から始まる物語に興味をひかれないならば、すぐに本を閉じるべきである。しかし、その魅力に抗える人間はそう多くないだろう。
新聞記者のヒルディの約二年間を描いた物語であるが、なんというか話の主軸になっている部分がわかりにくい。というよりも、主軸となる道があるとしたら、道草や脱線を繰り返しながら進んでいっているといえばいいのだろうか。そのために主軸が分かりにくくなっていて、あらすじを書くことが困難である。しかし、その道草や脱線が、素晴らしい魅力を持っているのである。
地球を謎の侵略者によって追われた人類は、月をはじめとしたいろいろな星に住んでいる。月(ルナ)にある新聞社でスクープを追うヒルディは、今まで何度か自殺を決行しており、その度にセントラルコンピューター(略称CC)が助けていたことが明かされる。本来CCは積極的に人間と関わることはしない。しかし、ルナの自殺率が増加しているためヒルディの自殺に介入したのであった。ヒルディはCCの介入に納得いかないものを覚えるが……。これでは的確に内容を説明しているとは言えない。ヒルディのあらゆる行動に言及したくなってしまう。
ガジェットのおもちゃ箱のような作品だ。セックスや性転換といった問題がかなりの分量描かれている。なにせ、主人公のヒルディは物語の途中で男から女へと変わるのである。性別の違いによる恋やセックスや、興奮云々というよりも、納得させられる部分が多い。それがストーリーのメイン部分なのかといえばむしろ脱線部分である。そう思っているとやっぱりメイン部分なのかもしれないと思える。
CCとのかかわりや未来世界のヴィジョンなど、見る部分が多い。だらだらと進んでいるといえばそれまでだし、半分以下の分量でまとめられると言えばその通りかもしれない。しかし、ごちゃごちゃのおもちゃ箱という印象を与えてくれるのはこの文量だからこそかもしれない。
かなり後半で、ハインライナーが登場すると急展開を迎える。無料の昼食など〜といった言葉もでてくるので、ハインライン作品を読んでいるとニヤッとできること請け合いだ。
ラストで静かな感動がやってくる。この長さをヒルディと付き合ったことでこそ、この感動は生まれるのだ。
テーマ : SF小説 - ジャンル : 本・雑誌
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